名も無きわたしとBUCK‐TICK

BUCK‐TICKについてあれこれ綴る自己満足のお部屋

名も無きわたし

BUCK‐TICKっていつ知ったのかなぁ。「狂った太陽」とか回収される前の「Six/Nine」の初回限定版を持っているので、リリース当時購入したんだと思う。だからそのころにはもう完全にだいすきだったのは確かだ。陸続きでもないど田舎でもちゃんと取り寄せてくれるすばらしいCD屋さんが近所にあったのは本当に幸運なことだった。

当時絵にかいたような普通の子どもだった私は普通に思春期で普通に厨二病だった。何か新しいものをキャッチするようなするどい感性なんて持ち合わせていない普通の私は、多分同級生とかから教えてもらったんだと思う。校内放送でICONOCLASMが流れたり、ギターでスピードのイントロ部分を弾いたりするような子たちの記憶がある。私は連日夜中にふとんの中でヘッドホンしながら、暗闇って音が澄んで聴こえるんだよな、とか意味不明なことを思いながら「狂った太陽」をエンドレスで聴いていた。「狂った太陽」ってネーミングかっこいいよなぁ。歌詞の英語とか日本語を辞書で調べて赤線をひいてみたり、雑誌を切り抜きしたり、ビデオを観たり。コインロッカーベイビーズを読んでみたり。あれはいまだに理解できない。今もまだ持ってるけど、BUCK‐TICK本を何度も何度も読んだり。今井寿天才すごいとか毎日言っていた。その後、黒夢とかTHE YELLOW MONKEYとか聴くようになってもBUCK‐TICKはそばにいた。それなのに。

私は高校を卒業してからあれだけ興味を持っていたバンドから離れていた。芸人永野の「オルタナティブ」に書いてあったみたいに何か薬をのまされて眠ってたんじゃないかってぐらい離れていた。そもそも音楽じたい誰かに教えてもらったりした曲をふわっと聴くぐらいで、この人はどんな人なんだろう、どういうところから音楽が生まれたんだろう、と深く掘り下げることはなかった。

これだけネットの時代になっているのに、BUCK‐TICKを検索することもなかった。なぜかインスタにだいすきだった今井寿があがってきていた時も薄目で見るぐらいだった。あっちゃんのあの時のお子さんが、というニュースも知っていたけど、曲に触れることはなかった。というか触れるのが怖かったのかもしれない。音楽を純粋に楽しむ、という感性をたぶん失ってしまった自分。BUCK‐TICKを理解できなくなっているかもしれない。(大変な上から目線だけど)BUCK‐TICKが変な大人になっていたらどうしよう、がっかりしたらどうしようっていう気持ちもあったと思う。

でもあの日。あの衝撃のニュースを目にした日。思わず声をあげるほどショックを受けて、しばし呆然としたあと。本当に自然にBUCK‐TICKに触れている自分がいた。あれだけ恐れていたのに不思議だった。私の感性は死んでいなかった。むしろあの頃より理解できる部分もあったかもしれない。BUCK‐TICKは、私のちっぽけな恐れなんて吹き飛ばしてしまうぐらいものすごいバンドになっていた。ちゃんと年を取っていて、ちゃんとかっこいい大人になっていた。あの独特の音楽性はさらに進化をとげ、そしてあっちゃんはとんでもない表現者になっていた。

正直に言うと私は櫻井敦司という人はそんなにすきではなかった。今井寿の意味の分からない(褒めてます)突き抜けた感性がだいすきだった私は、あっちゃんの生い立ちからくる歌詞の世界観もよくわかっていなかったし、この世のものとは思えないあの美貌にもあまりピンときていなかった。私にとってあっちゃんは、口を開けばなんだかお茶の間を気まずくさせるようなことを言うちょっと不安定なゆらぎのある人、みたいな。子ども心に「この人大丈夫かな」と、ひやひやしてしまう存在だったのだ。

でもあの日から色々なものに触れて、改めてあっちゃんを知って、なんていじらしくて繊細な感性を持つ素敵な表現者なんだ!と、とてもすきになった。

陸続きでもないど田舎の子どもだった私にとって、BUCK‐TICKは実在するかもわからない雲の上の人たち。ファンクラブの存在は知っていても、入会するなんて発想もなかったし、ライブなんて夢のまた夢。ばかだから大人になってもそのままの思考で。あっちゃんが亡くなってからなんて……本当に私はいつもいつも失ってから気が付くんだよなぁ。なんだってできたはずなのに。

死んじゃったら会えないじゃん。

人生は何がおきるかわからない。会いたいときに会っておかないと後悔するということは身に染みてわかっていたはずなのに……もうこんな思いはこりごりだ。

AA=の上田剛士がBUCK‐TICKのことを「謎の包容感で受け入れてくれる人達」と表現していたけど、BUCK‐TICKをずっとしまい込んでいた私のような人間をも、BUCK‐TICKの音楽はそっと受け入れてくれた。なにかの媒体で、今井寿が「中毒にしてやる」みたいなことを言っているのを読んだけど、私もとっくに中毒になっていたのだ。B-T TRAINに途中下車っていうものはないのかもしれない。あのしまい込んでいた長い年月、BUCK‐TICKほど熱中した音楽はなかったのだから。